風間伸次郎(採録・訳注).1996.『オロチ語基礎資料』(ツングース言語文化論集7,鳥取大学教育学部)より

15.魔物の子供

багди-ха-ти,ǯуухатала.нэӈу-њи,эки-њи.ǯуу њии-кээн
住んでいた、二人の娘。妹に、姉。二人っきりで
би-чи-ти.эмнэ,ӈэнэ-хэ-ти,хувэн-ти,хувэн-ти
いた(1)ある時、行った、森へ、森へ
ӈэнэ-хэ-ти.моо-воӈэннэ-хэ-ти би-ǯи-њ(и)=гињи.моо-во
行った。薪を取りに行ったのだろう(二人で)。木を
ӈэннэ-хэ-ти,моо-воӈэннэ-хэ-ти,моо-воӈэннэ-хэ-ти=гињи
取りに行った、木を取りに行った、木を取りに行ったのだ、
илачи-ла-и, илачи-ла-и,моо-воӈэннэ-хэ-ти,моо-во
火をおこすために、薪を取りに行った、木を
ӈэннэ-хэ-ти.[они]баа-ха-ти,баа-ха-ти,хитэ-вэ,хитэ-вэ
取りに行った。彼らは見つけた、見つけた、子供を、子供を
баа-ха-ти,ӈиичихитэ.эсиэсибагди-ха.эси
見つけた、小さな子供。今、たった今生まれたばかりの。たった今
багди-хахитэ.ǯава-ха-тихитэ-вэ.хэмаjаӱ-ха-титэи
生まれた子供。手にした、子供を。とっても好きになった、その
хитэ-вэǯава-jаа,ǯӱк-тигаи-ха-ти.ǯӱк-тигаи-jаа,туу,
子供を手にして家へ連れて行った。家へ連れて行って、そうして
ээви-и-ти,нӱӈан-ǯи-њи.ǯуу њии-кээн,хитэ[надо(2)
遊ぶ、その子供と。二人っきりでいたから、子供が必要だったのだ、
уже.]туу,ээви-хэ-титэихитэ-ǯи.ǯэвэ-кунэ-и-ти
すでに。そうして遊んだ、その子供と。食べさせる、
хитэ-вэ,багди-кӱна-и-ти.тэибагди-и-њихитэ-ти.эмнэ,ади
子供を、養ってやる(二人は)。そうして育ってゆく、その子。それで
инэӈи-вээ-чи-т(и) хуликтэ-jэ,хувэн-ти,ади инэӈутуу
日間、外を歩き回らなかった、森へ。数日間そうして
ээви-хэ-ти,тэихитэ-ǯи.хувэн-тиӈэнэ-хэ,[надо,]
遊んだ、その子供と。森へ行った、必要なのだ、
хувэн-ти,хуликтэ-и=гињи,моо-воӈэннэ-си-и[там,]
森へ、歩き回るのだ、木を取りに行く、そこで、
ǯэу=дээӈэннэ-си-и,хувэн-ти.ӈэнэ-хэ-ти.тэихитэ-ви,
食べる物も取りに行く、森へ。行った。その子供は、
тадӱǯӱг-дӱби-и-њи(3),тэихитэ-ти.эмэ-ги-хэ-ти.тимаи
そこに、家にいる、その彼らの子供。戻って来た。
ӈэнэ-хэ-ти,сиксээмэ-ги-хэ-ти.сиксээмэ-ги-хэ-ти,
出かけた、夕方戻って来た。夕方戻って来た、
ичэ-ки-ти,ǯӱк-тигаамхаjап-пи(-њи),хаjап-пи-њиǯӱк-ти.
見た、彼らの家は全て壊れていた、壊れていた、彼らの家は。
ǯӱк(-ти),коима-ти,гаамхаjап-пи.[вот,]тэихитэ-ти,
家、彼らの丸太小屋は、全て壊れていた。ところがほれ、その子供は、
хитэ-титадӱби-и-њи,аа-и-њи.нӱӈанти[давай]гаам
子供はそこにいる、寝ている。彼らはさあ、全部
оо-ги-ха-тиǯӱ-ббаваи.оо-ги-ха-ти.оо-ги-ха-ти,гунэ-и-ти,
作り直した、自分達の家を。作り直した。作り直して、言う、
"оjо~ооњи, аӈи,эдимаӈга би-чи-њиэдимаӈга
「ああ、どんなにか風がひどかったのだろう、風が強かったのに、
би-чи-њиооњитэихитэ-вэ,хитэ-вээ-чи-њи ваа-jа,тэи
どうしてこの子供を、子供を殺さなかったのだろう、この
эди.[ладно],"тэичӱппачӱка-и-ти,тэихитэ-ббэи.њаа
風は。まあいいわ、」彼らは口づけする、その自分達の子に。再び
оо-ги-ха-ти.њаатэитимаи-ди-њињааӈэнэ-и-ти,хувэн-ти.
作り直した。再びその次の日にまた出かける、森へ。
ǯэу-ӈиӈэннэ-си-ихувэн-ти,хувэн-ти.тимаиӈэнэ-э,сиксэ
食べる物を取りに行く、森へ、森へ。出かけて、夕方
эмэ-ги-ги-и-ти.њаатиӈээчи,ǯӱк-тигаам,хаjап-ти-њи,
戻って来る。またもあのようでった、彼らの家は全て壊れていた、
хаjап-пи-њи.эдимаӈга би-чи-њи,эдимаӈга би-чи-њи,туу
壊れていた。風がひどかったのか、風がひどかったのか、そうして
нӱӈантигунэ-и-ти.нэӈу-њиэкин-тигунэ-и(-њи),"эди
彼らは言う、妹は姉に言う、「風が
маӈга би-чи-њи,тэиэди,битихитэ-вэ-пиваа-м(и)=даа
ひどかったんだわ、でもその風は、私達の子供は殺さなかった
каа-дас(и) би-чи."њаа,тэихитэ-вэалана-и-ти,
のかもしれないわ。」再び、その子供を抱いて、
чӱппакта-и-ти."ооњиэ-си-њ(и) будэ-jэ,ооњиэ-си-њ(и)
キスする。「どうして死なないのだろうか、どうして死なない
будэ-jэ."њаагаамоо-ги-ха-ти,тэиǯӱ-ббаваи.
のだろうか。」また全部建て直した、その自分達の家を。
оо-ги-ха-ти,њааоо-ги-jаа,тэитимаи-ди-њињаа
作り直して、再び作り直して、その次の日にまた
ӈэнэ-хэ-ти.ǯуу мӱдан[уже,]туумэичи-и-ти.диггана-и-титива,
出かけた。二度起きた、すでに、それで考えるのだ。言う、そのことを、
"ооњитиӈээчи.эдимаӈгахитэаjа.э-си-њ(и)=дээ будэ-jэ.
「どうしてこうなのかしら。風はひどいが子供は大丈夫だ。死にもしない。
jэу=дээ."тэитимаи-ди-њињааӈэнэ-хэ-ти,ӈэнэ-jээ,њаа,
何だろう。」その次の日に再び出かけた、出かけて、また、
э-чи-т(и)ӈэнэ-э,аӈи,хили-ха-ти.њаӈгаӈэнэ-jээ,
しかし本当は行かなかった、どうした、隠れた。ちょっと行ってから、
хили-ха-ти.ичэ-си-и-ти,ичэ-си-и-ти=гињи,ооњ(и)тиӈээчи
隠れた。見ていた、見守っていたのだ、どのようにしてああ
одо-и-њи.тувэн-думаакитувэн-думааки, аӈи,эди
なるのかを。森にはない、山にはない、風は、
тувэн-думаакиэди,ээду=тээди.хили-jаа,ичэси-и-ти.
森にはない風が、ここにだけは風だ。隠れた、見ている。
тадӱхили-ха~ичэ-чи-и-ти.ичэчи-ки-ти=гдэлэтэи
そこに隠れて、見ている。見ていたらば、その
хитэ-ти,сагди~одо-и-њ(и),туусагди~одо-и-њ(и)туусагди~
子供は、大き~くなってゆく。そうして大き~くなる、そうして大き~く
одо-jоотуусагдиодо-joo,ӈаала-њихэмсагди~ӈаала-њи
なってそう大きくなって、その腕もとても大きい、その腕は
хэмӈээлэ-мусио-чи-њи.ӈээлэ-мусио-чи-њи.хитэтуу
とても恐ろしくなった。恐ろしいものになった。子供はそうして
диггана-и-њитуудиггана-и-њи хаип(-пи) аӈи-ха-ти,ǯӱбба-ва-ти
声をあげる、そうしてうなり声をあげる、彼らの家を
"ха~jӱ-ǯаӈа-изаjӱ-ǯаӈа-и,хаjӱ-ǯаӈа-и,вӱа~,"тууаӈи-ха-њи
「壊してやる、壊してやる、壊してやる、ワオ~、」そう叫んだ、
њаӈгатуви-jээ,њаӈгаӈиичи,ӈиичиочи-ги-и,ӈиичи
ちょっとして少し小さく、小さくまた戻ってゆく、小さく
очи-ги-иӈиичиочи-ги-и, гээ,њаӈгаӈиичиочи-ги-ха-њи.туу
なる、小さくなる、少し小さくなった。そうして
аапиӈ-ки-њи.мээнэнаа-дӱ,мээнэнаа-дӱ-и.гээ,тава
横になった。自分の元の場所に、自分の場所に。さあ、それを
ичэ-хэ,экки-њинэӈуи-њи,эмэ-ги-хэ.гаамњааǯӱбба-ва
見た、姉と妹は、戻って来た。全部また家を
аӈи,ǯӱбба-ваиоо-ги-ха-ти,гаам,[и] мэичи-и-ти,"ооњи
家を建て直した、全部、そして考える、「どう
аӈи-ǯа-пи."ваа-ича-и-титадӱтэихитэ-вэ,амба,хитэ
したらいいかしら。」殺してしまいたい、そこでその子供を、魔物だ、子供
э-си-њ(и) би-э,амба.та-ва=гда~ла,ила-ха-ти,тоо-во,
ではない、魔物だ。あれをおこした。火を
тоо-воила-ха-ти.тоо-воила-ха-ти.сагдиико,муу-вэ
火を焚いた。火を焚いた。大きな鍋に、水を
мууӈку-хэ-ти.[и]хуjухунэ-и-ти,тэимуу-вэхуjухунэ-и-ти.
注いだ。そして沸かす、その水を沸かす(彼らは)。
омо њии,нэӈу-њитадӱилиси-и-њи,экки-њиээду
一人が、妹があちら側に立つ(鍋をはさんで)姉はこちら側に
илиси-и-њи,тэихитэ-вэǯава-jаа,туумуучикэчи-и-ти.
立つ、その子供をつかんで、そうして投げる、
алана-и-ти,тавамуучикэчи-и-ти.тэиэкки-њиалана-и-њи
抱いてキスする、子供を投げる。その姉が抱いてキスする、
таламуучикэчи-и-ти,[через котёл,]туумуучикэчи-и-ти,
そこでまた投げる、鍋の上を渡してそうして投げる、
туумуучикэчи-и-ти,эиалана-и,ǯава-ги-иалана-и-њи,
そうして投げる、こっちが抱く、再び手に受けとめてかわいがる、
тэи,эки-њ(и)ǯава-ги-иалана-и-њитуумуучикэчи-и-ти,тэи
その、姉が今度は手に受けとめてかわいがる、そうして投げ合う、その
хитэ-вэ,туумуучикэчи-м(и)-ǯи,муучикэчи-м(и)би-э,
子供を、そうして投げていてから、投げていて、
тадӱ,муучикэдэ-хэ-ти,туухуjусумуу-лэ.гаамди
そこで、投げ込んだ、その煮え立った水に。すべての
аӈи-ха-ти,заХӱ-ма-и,хаǯӱ-м(а)гаам,хаǯӱ-ма-и
衣服家財道具を、家財を全部、家財を
чэм чэмнээк-ки-титэу-ги-хэ-ти.хаǯӱ-мачэм чэмтуу
すっかり乗せた、積んだ(そりに)。家財をすっかりそうして
тэу-ги-хэ-ти.гаамди[и]туту-ли-хэ-титуту-ли-хэ-ти.чоп
積んだ。全部、そして走り出した(4)走り出した。消え去るよう
туту-ли-хэ-ти.чоптуту-ли-хэ,экки-њигунэ-и-њи,
逃げ出した。見えなくなるよう走り出してから、姉が言う、
"алачи-jа,бииоммо-ги-ха,оммо-хо-м(и)ǯӱг-дӱ,хоси.
「待って、私は忘れたわ、忘れちゃったわ、家に、革なめしの道具を。
хоси-мооммо-ги-ха-ми,"экки-њигунэ-и-њи"хоси-мо, хоси-мо
革なめしを忘れてきちゃったわ。」と姉は言う、「革なめしを、
оммо-ги-ха-ми."[a]нӱӈанти-ǯигэсэ,туту-хэ-њи, аӈи
忘れてきた、」と。ところが彼らといっしょに、逃げて来た、
сиӈэ,сиӈэ.сиӈэ нӱӈанти-ǯигэсэтуту-ги(-хэ-њи).тэи сиӈэ-ти
ネズミ、ネズミも。ネズミも彼らといっしょに逃げて来た。そのネズミへ
гунэ-и-њиэкки-њи."сиӈэ~сиӈэ,ӈэи-вэ,тава,ǯӱк-ти,
言う、姉は。「ネズミよ、ネズミ、行け、それを、家へ、
хосо-могаи-ǯа-си.хосо-моӈэннэ-кэ."сиӈэтуту-ги-хэ-њ(и).
革なめしを取って来て。革なめしを取って来い。」ネズミは走り出した。
сиӈэтуту-ги-хэ,хоси-маӈэннэ-ги-хэ-њи.хоси-ма
ネズミは走り出した、革なめしを取って来た。革なめしを
ӈэннэ-ги-хэ,ичэ-кинбиэс(и)=кээтэисиӈэичээ-ки-њи,тэи
取って来た、見たのではないか、そのネズミは見たのだ、その
ǯӱбба,тэиǯӱг-дӱ аӈи, во~ лиас лиас [это] аво~
家、その家に、
аво~,тэиамбасагдио-чи,энуси-и-њигаамǯэгдэ-хэ-њи,
ワオ~、その魔物は大きくなっていた、痛むのだろう、全身焼けていた、
ǯэгдэ-хэ-њи,ооњ-ǯитэи,уктэ-њигаамǯэгдэ-хэ-њиэлээ
焼けていた、どんなにかその、肉も全て焼けている、もうすぐ
будэ-и-њи,элээбудэ-и-њи,мӱра-и-њимӱра-и-њимӱра-и-њи,сиӈэ,
死ぬ、もう死にそうである、叫ぶ叫ぶ叫ぶ、ネズミは
тэи аӈихоси-маǯава-jаа,[и]туту-ги-хэ-њи.
その革なめしをつかんで、そして走って戻って来た。
туту-ги-хэ-њисиӈэ,туту-ги-хэ-њи.тээлэмучи-ги-и-њи.
走って戻って来た、ネズミは走って戻って来た。物語るのである。
тээлэмучи-хэ-њи. эмэ...туту-ги-хэн-ǯи,[всё]элээ.
物語ったのである、走って戻って来てから。終わり、これまで。
нэӈу-њи,эки-њи,тууӈэнэ-хэ-ти,туутуту-ги-хэ-ти,
妹と、姉は、そうして行った、そうして走り去った、
хоӈтобаа-лабагди-ӈна-ха-ти.элээ.
別の土地へ暮らすように走り去った。終わり。

(1)語り手によれば、「水を汲み、木を切って来て、暮らしていた、」と言うべきところだが、オロチ語で何というか忘れたという。

(2)本来オロチ語ならгэлэ-и-ти=гињиというべきところであった、という。

(3)мэнэǯи-куӈ-ки-ти「残して来た」というべきところであったという。

(4)чуча-ги-и-ти「逃げ出す」というべきところだったという。