風間伸次郎(採録・訳注).1996.『オロチ語基礎資料』(ツングース言語文化論集7,鳥取大学教育学部)より

10.クマとカラス

багди-ха-ти,мамачаамапачаа.би-чи-њихитэ-ти,аса.
暮らしていた、おじいさんとおばあさん。いた、彼らの子供、女の子だ。
асагунэ-и-њи."биигэбэк(у-вэ)гана-ǯа-и=а,"гунэ-и-њи.
その女は言う。「私はベリーを採りに行く、」と言う。
эњэ[говорит],"гороэ-ǯи хуликтэ-jэ=э,"гунэ-и [это,]
母は言う、「遠くに行ってはいけないよ、」と言う、
"њии=дээǯава-ǯа-њи=даа."мамачаагунэ-и-њи,"киа=ма~
「誰がさらうかわからないからね。」おばあさんは言う、「海岸だけを
хуликтэ-вэ,"гунэ-и,[а то]паама-ǯа-си=а=даа."тэи
歩きなさい、」と言う、さもないと道に迷うよ。」その
хитэ-кээ-њ(и)киа=ма~хуликтэ-ли-хэ-њи,хитэ-кээгэбэӈку
子供は海岸に沿って歩き始めた、子供はベリーを
тави-ха-њитави-ха-њидииситукти-хэ-њидииситукти-хэ-њи,
集めて集めて山の方へ上った、山の方へ上った、
мапа,ичэ-хэ-њи,гунэ-и,"хитэ-кээ,хитэ-кээ,аваси
クマが見た、言う、「子供よ、子供よ、どこへ
ӈэнэ-и-си=э.""гэбэӈк(у-вэ)гада-и-ви=а,"гунэ-и-њи."о~,"
行くのか。」「ベリーを採っているの、」と言う。「おお、」
гунэ-и,"минтиэмэ-кэ=э,"гунэ-и-њиэси,мапа=талǯӱба-ти
と言う、「私の所へ来い、」と言う、今、クマは家へ
гаjа-ха-њи."паама-ха-си=а,"гунэ-и,хитэ-кээ-ти.тэи
連れて行く。「おまえは迷ったのだ、」と言う、子供へ。その
хитэ-кээ=дээ,мапагунэ-и-њи."эсиминǯибагди-Ха-си=а,"
子供に、クマは言う。「今からは私と暮らすのだ、」
гунэ-и.хитэ-кээгунэ-и-њи"ооњизэб-ǯэӈэ-и=э,"гунэ-и-њи,
と言う。子供は言う、「どうやって食べて行くの、」と言う、
"синдуjэу=дээмааки=а,"гунэ-и,"муу=дэээ-ǯи-њ(и)=дээ
「おまえの所には何もない、」と言う、「水もどうにも
ӱми-jа~,"гунэ-и-њи,"ǯэву=дэээ-ǯи-њ(и)=дээǯэптэ-jэ~,"
飲めない、」と言う、「食べ物もどうにも食べられない、」
гунэ-и."эсигэннэ-ǯээ,"гунэ-и.гэннэ-хэ-њи. [а]
と言う。「今取って来る、」と言う。取りに行った。
њаа-ламамачаа-са,мапачаа-са[рыба]эгди=э~ваа-ха-ти.
海岸の近くでおばあさん達、おじいさん達魚をたくさん獲っていた。
мамачаа-са,гаам,тэли-хэ-ти,тэли-и-титадӱ.њиа-ла.
おばあさん達は、全部魚を切って干していた、干しているそこで。海岸の所で
[a]мапа=тал,мапаэмэ-хэ-њи.ии-хэ-њи.кэчэ-вэ
クマは、クマはやって来た。入った、ナイフを
ǯава-ха-њи~,оња-ваǯава-ха-њи,акта-маǯава-ха-њи,[и]
取った、さじを取った、茶碗を取った、そして
чӱча-ги-ха-њи.инаки=лаинаки,гоо-и-њи.асанта=гда~
逃げた。犬、犬は吠える。女たちは、
"гааки-вагоо-и-њиби-ǯээ~,"гунэ-и-њи.тэимапа-њи,
「カラスに向かって吠えているのだろう、」と言う。そのクマは、
чӱча-ги-ха-њи,эмэ-ги-хэ-њи."баа-ха-ми=а,"гунэ-и-њи,"эси
逃げた、戻って来た。「(食べ物を)みつけたぞ、」と言う、「今
мээндуǯэву-лэ-иико-ǯо-си=а,"гунэ-и."бии=лэњаали-ва
自分のために食べる物を煮るのだ、」と言う。「私は生を
ǯэб-ǯэӈэ-и,[a]сииико-ǯо-си."ǯэву-лэ-њи,уктэ-вэ~
食べるから、おまえは煮なさい。」食べるための物として、肉を
хитэ-кээ-ду, аӈигаи-и-њи,гэбэӈку-вэ-њ(и)тави-и-њиǯапа-дӱ-њи
子供に取って来る、ベリーを集める、近くに
ǯапа-дӱ би-и, багдӱва-њи.тувэочи-ги-ха-њи.ǯӱба
冬にまたなった。家を
оо-хо-њи, мапачаа,мапа.[брёна]моо-ǯи[брёна]-ǯи.
作った、クマは。枯れた木で、枯れ木で。
моо-ǯиоо-хо-њи.мапагунэ-и-њи."бииаапин-ǯаӈа-и=а,"
木で作った。クマは言う。「私は冬眠する、」
гунэ-и-њи."авас(и)=дааэǯи хуликтэ-jэ,"гунэ-и-њи.
と言う。「どこへも決して歩き回るんじゃないぞ、」と言う。
"тувэ,тувэ,э-си-м(и) хуликтэ-jэ,"гунэ-и-њи.
「冬、冬だ、私はどこへも歩き回らない、」と言う。
"аа-и-му~,"гунэ-и-њи.хитэ-кээмээнду-кээ~нǯи аӈи,ǯэву
寝る、」と言う。子供は自分のためにだけ食べ物を
ико(-и)-њи.ǯэвуико-и-њи.ико-и-њи,бӱасињуу-хэ-њи,
煮る。食べ物を煮る。煮て、外へ出た、
эи,гаакигунэ-и-њ(и)"гаакгаак.иимиээдуби-и-си=а,"
カラスが言う、「ガー、ガー。どうしてここにいるのか、」
гунэ-и-њи."а~ мапа-тимин(эвэ)чоочи-ха-њи=а,"гунэ-и.
と言う。「クマが私をさらったのだ、」と言う。
"[вот] синэвэ,эси аӈи,ǯӱба-тигаи-ǯа-му=да,"гааки
「おまえを、自分の家へ連れて帰ってやろう、」カラスは
(г)унэ-и.тэи,хитэ-кээ,буу-хэ-њи,эси,ǯэву-лэ-ти,
そう言う。その、子供は、やった、今、彼らの食べるための物を。
гаакиǯэп-пи-ти.гаакигунэ-и-ти,"эсиjаача-г(и)-ǯа-мӱ,
カラスは食べた。カラスは言う、「今連れて行ってやろう、
хокто-воэ-ǯи тактӱчи-jа,"гунэ-и-њи,гааки. [палка,
足跡を残してはいけない、」と言う、カラスは。
палка]-ǯи,"эси[палка]буу-ǯэ-м(у),ǯуу њиигаи-ǯа-мӱ,"
棒で、「今棒を与えよう、二人で運ぶんだ、」
гунэ-и,"дээли-ǯэ-му,"гунэ-и,"аӈи jаача-г(и)-ǯа-мӱмапа-ти."
と言う、「飛ぶぞ、」と言う、「連れて行ってやろう、おじいさんの所へ」
ǯавачи-и-њитэихитэ-кээ, [и]дээли-ги-хэ-ти,бэjу, аӈи,
つかまった、その子供は(棒に)、飛んだ、獣は、
мапа,аа-и-њи,дээли-ги-хэ-ти.гаакигунэ-и-њи"гаак
クマは、寝ている、飛んだ。カラスは言う、「ガー、
гаак,хитэ-вэ-сугаи-ха-м(и) гаи-за-ми=а,"гунэ-и-њи,мамачаа
ガー、おまえたちの子供を運んで来たぞ、」と言う、おばあさんと
мапачаањуу-хэ-ти,[и]гунэ-и,"о~,"гунэ-и.
おじいさんは出て来た、そして言う、「おお、」と言う。
"мапа-ǯиби-чи-ми,"гунэ-и,"багди-ха-ми=а,"гунэ-и-њ(и),
「クマといたの、」と言う、「暮らしていたの、」と言う、
"мапааа-и-њи.туэаа-и-њи,тоомичӱча-ги...чӱча...аӈи,гааки
「クマは寝ている。冬は寝る、それで逃げて・・・逃げて、カラスが
минǯаjа-ха, аӈи-ха-ти,jаача-ги-ха-ти."элээ аӈи,њэӈњэ-ги-и-њи.
私を隠した、連れて帰ってくれた。」もう、また春になった、
гунэ-и-њи,"хитэ-кээ~,хитэ-кээ~,"гунэ-и-њи.
言う、「子供よ、子供よ、」と言う(クマは)。
"аа-и-си=нуу~,"гунэ-и-њи.хэмэ~би-и-њи.хонто-ло
「寝ているのかい?」と言う。静か、である。別の方へ
аӈи-ха-њи,њааагдӱчи-и-њи."хитэ-кээ~хитэ-кээ,
向き直った、再び尋ねる、「子供よ、子供よ、
аа-и-си=нуу?"хэмээ би-и-њи.ичэ-ки-њихитэ-кээмааки.
寝ているのかい?」返事はなく静かである。見たが、子供はいない。
укэ-вэњуу-хэ-њи.хокто=даамааки."ооњ(и)чӱча-ха-њи=а,"
戸から外へ出た。足跡もない。「どうやって逃げたんだろう、」
гунэ-и."хокто=даамааки,jэу=дээ аӈи,имасатути
と言う、「足跡もない、何も(ない)、雪が降った
би-и-њи,"гунэ-и.тиду,мапањаа,аапиӈ-ги-ха~
のだろう、」と言う。そこで、クマは再び、横になった、
аапиӈ-ги-ха-њи[уже]њэӈњэ-ги-хэ-њи [это],
横になった、もう春になっている、
"гэлэ-ктэ-нэ-ǯэ-и=э~,"гунэ-и,"хитэ,хитэ-кээаваси...
「捜しに行こう、」と言う、「子供、子供はどこへ、
аангэктэ-и-њ(и)=дээ биǯээ."гунэ-и-њи. [а]гааки-са,моо-ло
凍えてしまったのだろう、」と言う。カラスたちは木に
тээси-и-ти."гаакгаакгаак,"мӱра-и-ти."мапа
とまっている。「ガー、ガー、ガー、」と叫ぶ。「クマが
эмэ-и-њи~,"гунэ-и"мапаэмэ-и-њи~."мапачаа-њ(и)њуу-хэ-њи.
来るぞ、」と言う、「クマが来るぞ。」おじいさんは出て来た。
доокчи-и-њи,мапааӈи-ва-њи=а,хили-ха-њи.
聞いている、クマがやって来るのを、身を隠して待った。
миаӱчала-ха-њи. [а]мапачаа=тахитэ-кээ-тигунэ-и-њи,"cуу,
銃で撃つのだ。おじいさんは子供へ言う、「おまえたち、
аӈи,авас(и)=дааэ-ǯи ӈэнэ-э-су,тээси-вэ-суǯӱба-дӱ."
どこへも行ってはいけない、座っていろ、家に。」
тээси-и.мапаэмэ-и-њи,эмэ-и-њи.хокто,ичэ... аӈи,
座っている。クマが来る、来る、足跡を見るが、
э-чи-њ(и)=дээ баа-ги-jа.тоjоочи,мапачаа-њи,тэи
見つからない。それから、おじいさんは、その
мапа-ва-њиваа-ха-њимиаӱчала-ха-њи.гааки"гаакгаакгаак,
クマを殺した、銃で撃った。カラスは「ガー、ガー、ガー
ваа-ха-њи."мӱра-и-ти,"њуу-гэ-су,"гунэ-и-њи,хитэ-кээ-ти
殺った、」と叫んだ、「出て来い、」と言う、子供、
аса,гунэ-и,"лааки~=а,"гунэ-и,"мапа-њи,эмэ-и-њи."
妻、言う、「近い、」と言う、「クマが来る、」と。
тоjоо=ти аӈи,гааки-њи, аӈи,бэлэчи-хэ-ти.гааки
そうやってカラスが助けたのだ。カラスは
гунэ-и-њи,"хитэ-вэ-си,"гунэ-и,"мапаǯава-ха-њи=а,"гунэ-и,
言う、「おまえの子供を、」と言う、「クマがさらったのだ、」と言う、
"ǯӱба-тигаи-ха-њи.хитэ=дээ.мапагунэ-и.ээду
「家へ連れて帰った、その子供を、だ。クマが言って、ここで
би-и-си,багди-и-си,"хитэ-кээгунэ-и-њи,"мапаǯава-ха-њи=а,"
いるのだ、暮らすのだ、と。子供は言う。「クマがさらったのだ、」
гунэ-и,"минэвэ,тадӱмооǯава-ва,"гунэ-и-њи,"буу
と言う、「私を。そこで木をつかめ」、と。言う、私たちは
эс(и)ǯуур,ǯуу њиисинэвэ,ааӈи-ǯа-мӱ[а то]хокто-во
二人、二人がおまえを、連れて帰ってあげる、さもないと足跡を
ичэ-ǯэ-њи=э,"гунэ-имапачаа.[вот]тэимапа=даа,
見るだろう、」と言う、おじいさん。ほうれそのクマだ、
мапа-њи,нуу-хэ-њибӱаси,хитэ-кээ~хитэ-кээ, хитэ-кээ~
クマが出て来た外へ、子供よ、子供、
хитэ-кээ,хитэ~ хитэ-кээ,мӱра-и-њимӱра-и-њимааки.њаа
子供よ、子供、叫びに叫ぶがいない。再び
аапиӈ-ги-ха-њи.имасаэмэ-и.сунта~гунэ-и-њи.
寝た。雪が来る、深い、と言う。
аапин-ǯэ-и~њаааапиӈ-ги-ха-њи.гаакиэсиэмэ-ги-хэ-ти,
寝よう、再び寝た。カラスが戻って来た、
њаатаваси.дээли-хэ-ти,"мамачаа
またそこへ。飛んで来た、「おじいさん、
мамачаа,хитэ-вэгаи-ха-мӱ,"гунэ-и.њуу-хэ-тихитэ-ти.
おばあさん、子供を連れ帰って来たよ」と言う。出て来た、彼らの子供の所へ
"оо~,"гунэ-и-њи."эмэ-ги-хэ-си,"гунэ-и-њи,"ооњи
「おお、」と言う。戻って来たなあ、」と言う、「どうやって
багди-ха-си=а,"гунэ-и-њи.хитэ-њигунэ-и,"ооњ(и),ǯуу
暮らしていたのか、」と言う。子供は言う、「どうやって、二匹の
гаакиминэвэмоо-ǯигаи-ха-ти=а,"гунэ-и-њи, [чтобы это]
カラスが私を木で運んで来た、」と言う、
мапа,хокто-воэ-си-њ(и) ичэ-лэ-њи. [вот] аӈи-њи,тоjоо=до
クマが足跡を見つけないように。それから
гааки аӈи,њаатээ-ги-хэ-њитадӱмапаэмэ-и-њи
カラスは再びとまった、そこでクマがやって来るのを
доокчи-за-њ(и)мапачаагунэ-и-њи,гунэ-и-њи,мапа
聞いた、おじいさんは言う、言う、「クマが
эмэ-и-њи=э~,"гунэ-и,этучи-нэ-ги-хэ,ǯӱбачиа-ла-њи.
来るぞ、」と言う、見張りをしに行った、家の裏で。
"хитэ-кээ-вэнуӈангэлэ-ктэ-и-њ(и)биǯээ,"гунэ-и.
「子供を彼は捜し回っているようだ、」と言う。
мапачаамиаӱча-иǯава-ха-њи.[и]алачи-и-њи.туумапа
おじいさんは自分の銃をつかんだ。そして待つ。そうしてクマは
эмэ-и,мапаэмэ-и-њи.[и]миаӱчала-ха-њи.бук-ки-њи.
来る、クマが来る。そして銃で撃った。死んだ。
[всё.]
終わり。