風間伸次郎(採録・訳注).1996.『ウルチャ口承文芸原文集1』(ツングース言語文化論集9,鳥取大学教育学部)より

1. Калǯамӥ

カルジャメ

баланаамунбаа-дӱ-пӱ,тӥсњамавӱл(ӥ) би-чинэимаӈгӱ-дӱ.
我々の世界は、とても暖かかった、この大河は。
хаӥ-дӱ хумби-чин,чииндэ=дээ,эс(и)кэвэ,баланааби-чи(н)
どこにだっていた、小鳥たちも、今はいないが、昔はいた、
чииндэ=мээчби-чин=дээ=сэлэ,баланахаматаачииндэби-чин.
小鳥らしい振る舞いだった、昔はどんな種類の小鳥だっていた。
ии,хаӥ,тээл,њамал-дӱби-чин,хаӥ,Калǯамӥ.
そう、その時、暖かい時だったその時にいたのだ、カルジャメが。
Калǯамӥ=гдал,тӥсбэjэ-н(и)дааjӥ,гӱгдамоодэлиӈ-к(и-ни)....
カルジャメは、とても体が大きくて、高い木に
хаӥ,пэǯиӈ-ки-ниби-и,нэктэмооуjэ-ки-ниби-и,тӥӥ
少しだけ及ばず、低い木より大きかったのである、その
Калǯам(ӥ).њиихэсэ-ǯи-н(и)хэсэ-чу,њии=мээчи=лэби-и,хаӥ,
カルジャメは。人の   言葉を持ち、人のようであるが、
поро(н)чӱмчӱмби-и,ӈаала-нӥǯуэли,тараа,тӥӥ
頭のてっぺんが尖っている、腕は二本で、それから、その
Калǯам(ӥ)=гдалаа,хаӥ,пиктэ-jимоо-дӱ,локо-раа,њии=мээчи=лэ,
カルジャメというのは、子供を木に吊るし、人がするように
наањӥ=мээчи=лэ эмсу-и би-чин, "бэ〜 бэ〜." [аа], далан-дӱ, муу
ウリチ人と同じように、揺りかごを揺すって子をあやすのだった。洪水の時は、
хаӥдалан-дӱ-н(ӥ),сӱгдатабӱта-ӥ-н(ӥ)муу-кипул(ик)тэ-м(и),"халбаа
水が氾濫した時は、魚を捕って、水へ歩きまわり、 「浅い、
халбаа халбаа," вэн-дии-н(и). [а] халбаа-дӱ=гдалаа,вэн-дии-н(и).
浅い(いつも反対のことを言う)、」と言う。浅い時には、言う、
сӱӈтаасӱӈтаасӱӈтаа,вэн-дии-н(и).гээ,тӥӥта-м(ӥ)=дээ=гдэл
「深い深い、深い、」と言う。さあ、そうであったが、
ӱмгасан-дӱ=гдалаа,гасадувэ-кээн-ду-н(и)
ある村に、村の端に
њучикээ〜хагдӱби-чин.тӥӥхагдӱ-дӱ=гдалаа,хаӥ,ӱм,
小さ~な家があった。その家には、
ам,эди-ни〜асӥ-нӥ〜пиктэ-н(и),хусэпиктэатӥӥ〜
夫と、妻と、その子供、男の子でとても
њууч(и)-кэ,њуӈгуањан-дӱ〜=лаби-и-н(и).тараатӥӥ-сал,
小さい、六才になるだろうか、それがいた。それから彼ら、
тӥӥ-сал-тӥ=гдалаа,тӥӥКалǯам(ӥ)=гдал,сиксэ〜-н(и)сиксэ-н(и)
彼らの所へ、あのカルジャメが夜な夜な
пул(ик)тэ-л(у)-хэн.[аа],сиксэди-ми〜вэн-дии-н(и)."пиктэ-jи
やって来るようになった、夕方来ては言う。「子供を
буу-руу,пиктэ-jибуу-руу."таатӥӥ-сал=даатӥсӈээлэ-хэ-ти,
よこせ、子供をよこせ。」それで彼らはひどく恐れた、
хоон(ӥ)та-вӱэсӥ,пиктэ-jи-вэгэлэ-и.тараатӥӥмурум(-бэ)
どうすべきか、今、我らの子供を求めている、と。それで彼らは
гаса-ӥ-тӥ,ӱмсиксэ-ǯу-вэ-ми,таКалǯам(ӥ)ǯиǯу-и,тӥмана-н(ӥ)
心配する、ひとたび夕方になると、あのカルジャメは再来する、次の日も
[опять]сиксэ-ǯу-вэ-миКалǯам(ӥ)ǯиǯу-и,[элэ=дээлӱчад-ӥча-ӥ].
再び夕方になるとカルジャメが戻って来る(2)、
та-раа,та-раа=гдалэси,асӥ-н(ӥ)вэн-дии-ни,"гээ,"вэн-дии-ни,
それで、そこで今、妻は言う、「さあ、」と言う。
хаӥ,гасан-дӱдааjӥмапа,тӥӥбаланаадааjӥмапа-ва=даа=каа〜
村には偉大なじいさんがいて、昔は偉大なじいさんを、
хэсэ-вэ-н(и)доолдӥ-иби-чи-т(и)=гуни〜њӥӥ-сал."гээтӥӥ
彼の言葉を聞いたものだったのだ、人々は。さあその
мапа-ти,панӥ-ӈда-рӱӱ,"вэн-дии-н(и),"хоон(ӥ)та-м(ӥ)аjа=ка=мдэ."
じいさんの所へ、聞きに行け、」と言う、「どうしたらよいものか、」と。
сиксэ-н(и)сиксэ-н(и)тӥӥКалǯам(ӥ)пиктэ-вэгэлэ-ӈдэ-м(и)
  夜な夜なあのカルジャメは子供を求めて来て
пул(ик)тэ-и.тараатӥмана-н(ӥ)=(г)далтӥӥ,тӥӥ-њӥӥ=гдал,тӥӥ
歩き回る。それから次の日にその人達は、その
мапабаа-н(ӥ)ӈэнэ-хэн.ӈэнэ-хэн,"гээ,"вэн-дии-н(и),"даама〜,
じいさんの方へ行った。行った。「さあ、 長老様、
вэн-дии-н(и),"хоон(ӥ)-ачӥ=каа〜,"вэн-дии-н(и)."сиксэ〜-н(и)
どうしたらよいものでしょうか、夜な夜な
сиксэ-н(и)тӥӥКалǯам(ӥ)тӥӥпул(и)ктэ-и,тӥӥпул(и)ктэ-и,
そのカルジャメがやって来て、それがやって来て、
пиктэ-jибуу-руу,пиктэ-jибуу-руу,тӥӥгэлэ-и-ни,"
子供をよこせ、子供をよこせ、と求めるのです。
вэн-дии-н(и)."хоон(ӥ)та-м(ӥ)аjа=ка〜,"вэн-дии-н(и),"эси."
どうしたらよいものでしょうか、今。」
тараатӥӥмападосоǯо-м(ӥ)=дээ〜вэн-дии-н(и),"сиитӥмана
それからそのじいさんは聞いていたが言うのだ、「おまえは明日
ǯиǯу(-ву)чэ-н(и),сиксэǯиǯу(-ву)чэ-н(и)вэн-сэри=э〜,"вэн-дии-н(и),
魔物が戻って来たら、夕方  戻って来たら言え、
гээ,баачӱ-ӥ-сӱ=мдэ.хаӥ,наанбаачӱ-и-сӱвэн-дии-н(и)осӥнӥ,
『さあ、競争しよう』と。奴が競争しようと   言ったならば、
учэ-вэ,учэњии-ммипиктэ-jињээ-вэну-руу,
戸を開けるやいなや子供を出て行かせろ、
вэн-дии-н(и),пиктэ-jиалавсӥ-раа=даа.пиктэ-jи
(もちろん)子供にまずよく指示しておいてからだぞ、子供を
њээ-вэн-дэрээ,тӥӥКалǯам(ӥ),калдам(ӥ)-ва-н(ӥ),хэтулу-рээ
出て行かせて、そのカルジャメの火器袋を(帯から)裂き取って&
ǯӱӱг-ба-н(ӥ)туту-лу-ǯу-вэ-м(и),туту-лу-ǯу-вэ-ммиучэjакчӥ-сал-тӱ,
家へ走り込ませて、走り込ませたならすぐ戸を閉めよ、
вэн-дии-н(и).учэсомǯӥ-сал-тӱ,вэн-дии-н(и).наањӥхагдӱн
と言う。戸を閉めよ、と言う。ウリチの家は
отӥӥњуучи-кэ,Калǯам(ӥ)тӥӥучэ-киии-м(и)=дээ
とても小さい、カルジャメがその戸から入ろうとしても
мутэ-эсин=гӱн.Калǯам(ӥ)тӥӥхагдӱ-ǯӥ=даагӱгда.гээ,тӥӥ
できないのだ。カルジャメはその家よりも高い。さあ
тараа=гдэлэ,тӥӥгур-сэл=дэлэтӥӥ=мээтта-ха-тӥ.
それから、その人たちはそのとおりにした。
сиксэ-ǯу-хэ(н),Калǯам(ӥ)ди-чи(н).тараагучипаава
方になった、カルジャメは来た。そしてまた窓の
баакӥ-кӥ-нӥ〜,ӥлӥ-ӈда-раавэн-дии-н(и),пиктэ-jибуу-руу,
外へ来て立って言う、「子供をよこせ、
пиктэ-jибуу-руу."гээ,тараатӥӥњии=гдэлвэн-дии-н(и),
子供をよこせ。」さあそしてその人は言う、
гээ,вэн-дии-н(и),Калǯам(ӥ)=ӱӱ,баачӱ-и-сӱ,вэн-дии-н(и).хаӥ,
「さあ、カルジャメよ、競争しよう、
баачӱ-маар(ӥ)баачӱ-ӥ-сӱ,вэн-дии-н(и)."гээ,баачӱ-ӥ-сӱ,"
競争して競争しよう、」と言う。「よし、競争しよう、」
вэн-дии-н(и)."ӈӱӥдабда-ха(н)тӥӥњии.......миндабда-хам(-бӥ)осӥнӥминпиктэ-вэ-jи
 私が負けたならば私の子供を
сииǯапа-ӥ,сиидабда-ӥ-с(ӥ)осӥнӥ,гээсиимумбэњаала-ӥ."
おまえが取る、おまえが負けたならば、おまえは私達をほうっておいて
гээ,тараа=гдалтӥӥ,Калǯам(ӥ)тӥхала-ха(н),эси=гдээтӥӥ
くれ。」するとその、カルジャメは賛成した、その
њӥӥ=гдалучэњии-хэн,учэњии-вэ-ми〜,тӥӥпиктэ=гда(л)
人は戸を開けた、戸を開けるとその子供が
туту-м(и)њээ-хэн.туту-м(и)њээ-ми〜тӥӥКалǯам(ӥ)
走って出た。走って出てそのカルジャメの
калдам(ӥ)-ва-н(ӥ)ǯапа-мӥхэтулэ-хэ-н(и).хэтулэ-ми,тӥӥ
火器袋をつかんで裂き取った。裂き取って、そうして
туту-лу-ǯу-м(и)ǯӱӱг-ба-н(ӥ)ии-ǯу-хэ-н(ӥ).Калǯам(ӥ)=даа[пок(а)],хай,
走って家へ入った。カルジャメは
тикичавачаватӥӥпиктэ-вэгэлэ-кэчу-м(и),корпӱ-м(ӥ)=даа
身の回りをあたふたと手を動かして子供を捕まえようとするがうまくは
кэвэ,учэ-вээлњиисомӱ-ха(н).тараатӥӥКалǯам=гдалтӥӥтоокӱ-хан
いかなかった、戸をもう人は閉めた、そしてカルジャメは上って帰った、
дуис(и).тараатӥмана-н(ӥ)гучи=э,тӥӥ,тӥӥњии=гдээ,тӥӥ
森へ。それから次の日にまたその人は
мапабаа-н(ӥ)ӈэну-хэ-н(и),ӈэну-рээвэн-дии-н(и),"гээдаама〜,
じいさんの方へ行った、行って言う、「さあ長老様、
эс(и)хоон(ӥ)та-вӱэси,эсиэинэӈэǯиǯу-хэносӥнӥхоон(ӥ)
どうしたらよいでしょうか、今、今日戻って来たならばどう
та-вӱ."тии,мапа=гдаахэмэ〜ǯосоǯо-м(ӥ)=дээ
しましょう。」じいさんは黙って聞いていたが、
вэн-дии-н(и),"сакпӥм-баулээ〜нхуулду-ǯу-вэну-руу,"
言うのだ、 「斧をよく熱するのだ、
вэн-дии-н(и),кандоо-ла-н(ӥ),тӥспӱтапӱтасээгǯэн
かまどの中にとても明るく真っ赤に
опӱ-(в)а-м(ӥ)хуулду-ǯу-вэну-руу,"вэн-дии-н(и),сакпӥм-ба.гээ
なるように熱せよ、斧を。 さあ
тараа=гдэл=мэтӥӥ,Калǯам(ӥ)ди-дэрээ,паавабаакӥ-ла-н(ӥ)
それからカルジャメが戻って来て、窓の外に
ӥлӥ-раа,хай,пиктэ-вэгэлэ-и-н(и)осӥн(ӥ),маа,эи
立って(3)、
пиктэ-вэǯапа-ǯ(у)-уу.....кэвэ,калдам(ӥ)-вагэлэ-и-н(и),
калдам(ӥ)гэлэ-ǯу-и-н(и).калдам(ӥ)-вагэлэ-ǯу-и-н(и)осӥн(ӥ)=маат
火器袋を求める。火器袋を求めるならばその時に
калдамӥǯапа-ǯӱ-рӱӱ=ӱм,тӥӥпӱтапӱтасээгǯэно-чӥ-а,
『火器袋を取れ』と言え、あの熱く熱く真っ赤になったのを、
сакпӥӥ-ва=гдал,паава-вапосбуу-руруу=ӱм=дээ."баланаанаањӥ
斧を、窓を貫いて渡せ。」ウリチの
паава-н(ӥ)=(г)далаа,хаӥ,баӥсӱгбӱ-маби-чин.тӥӥ,тики
家の窓はただの魚の皮でできていた。そこから
пӱкаӱл(ӥ)сакпӥм-батӥӥбуу-руруу,"вэн-дии-н(и).тараатӥӥ-ва,
熱い斧を渡せ、と言う。
тараатӥӥмапатӥӥалӱӱсӥ-ха(н).тӥӥњиитӥӥǯиǯу-хэн,
そしてそのじいさんはそう教えたのであった。その人はそうして戻った、
тараасиксэгээтӥӥхалачӥ-э〜-л,ӈээлэчи-мээр(и),тараатӥӥ,
それから夕方、さあそうして待っている、恐れながら、それからあの
Калǯам(ӥ)=даасиксэгучи,эу-ǯу-хэн.эу-ǯу-рээпаава
カルジャメが夕方また下りて来た。下りて来て窓の
баакӥ-ла-н(ӥ)ӥлӥ-раавэн-дии-н(и),"калдам(ӥ)-ва-jӥбуу-ǯ(у)-уу,
外に立って言う、「火器袋を返せ、
калдам(ӥ)-ва-jӥбуу-ǯ(у)-уу."тараатӥӥњии=гдэл,тӥӥ
私の火器袋を返せ。」それからその人は、あの
сакпӥм-ба,пӱтапӱтасээгǯэнопӱ-вамбӱ-ха(н),хаӥ,
斧を、熱く熱く赤くしたものを、
хуулудуǯэ-вэн-дараа,тӥӥпаава-вапос,буу-хэн."маа,калдамӥ
熱してから、その窓を貫いて渡した。 「ほら、火器袋を
ǯапа-ǯ-ӱӱ,"тӥӥ,хаӥ=гдала,Калǯамӥ=гдалатӥӥ,пӱкаӱлсакпӥм-ба
取れ、」カルジャメはその熱い斧を
ǯапа-раа,пӱкаӱл=гӱнӥачӥкаӱлӥ,ачкаапӱчӥкааачкаа
つかんで、熱いのだ、それは熱い、アチチアチチ、アチチ
пӱчӥкаатӥӥдуиситӥӥтуту-м(и)тӥӥтоокӱ-хан.
アチチ、とそうして森へそうして走って上った。
таваӈчӥӥǯӥӥ〜эу-ǯу-м(и)=дээкэвэ.элэ.
それからは二度と下りて来ることもなかったという。終わり。

(1) тӥӥ та-м(ӥ)=дээ=гдэл、この語の下線部は、広く「エ」のように発音され、しかも長く強く発音される。

(2) элэ=дээ лӱчад-ӥча-ӥ、とは、「もうロシア語でいいそうになってしまった、」と独り言を言ったもの。

(3) 以下は「火器袋を求めた」と言うべきであったところを「子供を求めた」と語り手が言い間違ってから、言い直したもの。