風間伸次郎(採録・訳注).1996.『ナーナイの民話と伝説 2』(ツングース言語文化論集8、鳥取大学教育学部)より.

4.olgoma

大蛇

1993年3月17日、ナイヒン(Найхин)村にて、Николай Петрович Бельды(ベリドゥイ)氏(男性、1925年 Таргон村 生まれ)より録音。


balanaa, bue...miieni-nee-yisagdil-do-a-ni, emu nii,
昔ある時、 私達、私の母たちの、老いた人々の中の、ある人が、
asi-jiene-xe-ni=goan(i),xaibaaro-a-ni,talo-wa
妻と出かけたのだ、どちらの方へ、 白樺の樹皮を
gerbe-nde-m(i)ogda-d(o)tee-ree,ene-xe-ci. [nu,] tei
集めにでかけ、舟に乗って、行った さて、 その
ogda-d(o)tee-reeene-ree,talo-agerbe-i-du-e-nijee~
舟に乗って行って、白樺を集めている時に、 ちょうどその
talo-waacokta-i-do-a-n(i)=tanii,teiambaanjilga-ni
白樺を採っているその時に、そのトラの声が
mora-psiN-ki-ni, tui ta-raa=taniiteiambaanjilga-n(i)
叫び出した(のを聞いた)、 それからそのトラの声が
mora-i-ci-a-n(i)=taniinoan(i)=tanii,xamasieu-gu-em-bi=e
叫んでいるのに対して彼は、後ろへ引き返そうと
murci-m(i)=tenii,murci-xe-ni=goan(i).ii,tui ta-raa
考えて、そう考えたのだったが、そうそれから
tas(i)ko ene-xenteiambaan.ambaam-baolgoma, xai-ci,
ばったりと出くわした、そのトラに。トラを大蛇が、
moo-cixerke-xe-ni.xai-ci,piagdan-ci.xerke-ree,es(i)
木へ縛り上げていた。白樺へ。縛り上げて、今にも
eleewaa-rii,eleebu-dii-ji-e-ni.xai-go-i-n(i)=goan(i),
もう殺そうという、今にも死にそうであった。何のせいで、
kamala-i-n(i)=goan(i).tui ta-raatao(si)ene-ree=tenii
きつく締めあげていたせいなのだ。それから(彼は)そこへ行って
xoogdo-ji-yi=tanii,xad(o)xad(o) boa-l(a)ciir ciir
白樺の皮を剥ぐ道具で、何箇所かそこかしこの場所を、ズバズバと
mokto-ci,mokto moktoene-i-ji-e-ni,ta-xa-ni=goan(i).tui
バラに、 バラバラになるように、切ったのだ。
ta-raatei,bui-kin,teiolgoma.olgoma
それからそれは死んだ、その大蛇。大蛇が
bur-bucie-n(i)=teniitawaNki=tanii,xai-go-xa-ni=goan(i),waisi
死んだらそこからどうしたのだ、 岸辺に
eu-gu-xe-ni.eu-gu-xe~n,asi-molia,ogda-dooo-go-xa~n.
下りた。下りた、 妻と二人で、舟に乗った。
teniioo-go-i-ci,ogdaana-go-i-do-a-ci,ogdadoo-ci-a-ni,
ちょうど乗ったばかり、舟を押して行く時に、舟の中へ
puiku-xe-ni=goan(i),teipuree(n) ambaa-ni.puiku-ree=tenii,
跳び乗って来た、あのトラが。跳び乗って、
xai-rii-n(i)=goan(i),dao-go-i-do-a-ni,cawa
どうするのだ、渡って行こうとする時に、そのトラに
un-dii-n(i)=goan(i),"siinasal-b(i)lupsin-doo=mda."
言うのだ、 「おまえは目を閉じていよ、 」 と。
aca-asi,miiasi-yiNeele-i,tui ta-raanasal(-bi)
「だめだ、私の妻が恐がるから、 」 と。それから目を
lupsin-dee~dao-rii-n(i)=goan(i).bagiadao-go-i osini,
閉じて渡るのだ。 向こう岸へ渡ったら、
totaraateimaNbo-kaam-badao-go-raa,sapsi kira-a-ni
それからその川を渡ってから、向こう岸へ
isi-mi,noani xuluN-ki-ni=goan(i).xuluN-kin,tui ta-raa
着いて、トラは岸へ跳び移ったのだ。跳び移った、 それから
jook-c(i)jiju-xen=teniiteimafa,teimafa
家へ戻って来た、そのおじいさん、おじいさんじゃ
bi-esi-n(i)=goani,naonjoannai.tui ta-raajook-ci
なかったんだった、 若い男だ。それから家へ
jiju-p(i)=tenii,goida-xa-ni.ambaangoida-m(i)bi-cin.
戻ると、長いこといた。トラは長居していた。
sikse-gu-i-du-e-ni,xai-rii-n(i)=goan(i), apsiN-go-xan,tei
夕方になった時に。横になった、その
dolbo-ni=atolkici-i-n(i)=goan(i), "mii=keexora-xa~n,
晩に夢を見るのだ、 「私の方は助かったけれども、
sii=teniiwaliaxa.xoon(i)bi-pu-gu-i ta-i-si,simbiwe,
おまえは災難だ。 どうやったら生きぬいていけるだろうか、おまえを、
simbixoon(i)=daa xai-gila-isaa-wasi," un-dii-n(i)=goan(i),
おまえを(大蛇が)どのようにするだろうか見当がつかない、」 と言うのだ、
xoon(i)=daasimbiejapa-ica-gila-isaa-wasi~,waliaxasii,
どのようにおまえを捕まえようとするかわからない、災難だ、おまえは。
eipaawa-siboakia-la-ninee-rem-bi,"un-dii-n(i)=goan(i),
このおまえの家の窓の外の所に置いておく、 」 と言うのだ、
toxom-ba.cawacuudoo-latesice,xai-do-yi,tetue-du-yi
「ボタンを。 それを一番内側に常に持ち歩くのだ、服につけて、
tetu...tesice-Ne-si=tenii," un-dii-n(i).xai-raa,
身につけて歩いてくれ、」 と言う、
noso-raa,toxom-banoso-raa,tesice-Ne-si=teniitul tul=dee.
縫いつけて、ボタンを縫いつけて、身につけて歩いてくれ、いつもいつもだ。
ejibeye-jiaco-ra=amda."tui ta-raa=taniitei,
決して体からはずしてはならない、 」と。それから、その、
nai=taniixai-rii-n(i)=goan(i),esi=tenii,pureem(-ba)
人はどうしたか、 さて、 森を
pulsi-i=dee,olgomaiceje-i,buyum(-be)beyuntu-xen=dee
歩き回っていても大蛇が見ている、獣を狩りしていた時も
olgomaiceje-i,xai-wa,xeweem-be,sogdatasogja-masi-i=daa
大蛇が狙っている、湖を、 魚の漁をしている時にも
olgomaiceje-i,xai-do=daaxemolgoma=man'atul tul
大蛇が見ている、どこにいても全て大蛇だけがいつも いつも
noam-ba-ni,noam-ba-ni.[nu]noam-ba-ni
彼のことを(見ている)。 さあ、 だがしかし彼のことを
toNgala-asi-ni=goan(i).tul tulolgomaiceje-i,nai,nai
襲って来ないのだ。いつもいつも大蛇は見ている、他人、普通の人には
ice-esi,[a]noanitul tulbaa-riitul tulbaa-riitul
見えない、だが彼はいつもいつも見つける、いつも 見つける、いつも
tul tulbaa-rii,[nu]tui ta-raa=taniitawaNki,em
いつも見つける、 さあ、それからそこから、ある
modannai,xotonbaaroene-meeri,sansinxoton-ci-a-ni,
その人は町の 方へ出かけて、「三姓」(1)の町へ、
ene-meeri,ogda-dogioli-i-ni=goan(i).ogdagioli-i,
出かけて、 舟に乗って櫂をこいでいたのだ。舟を こいでいる、
gioli-mi,gioli-m(i),ogda-dogioli-m(i)ene-m(i)=teniitui
こいで、こいで、舟を こいで行って、そうして
gioli-m(i).[nu]daaiogdagila-jiene-ur(i)=kes.noani
こいで、さあて、大きい舟、大舟で行くのだ。彼は
emjie-nie-legioli-xan=taniiei,jakpia-jiakaltaa-jia.
片側でこいでいた、その、岸に近い方の側で。
tuigioli-m(i)ene-i-du-e-n(i)=tenii,pekuu,pekuu,
そうしてこいで 行く時に、暑い、暑い、
tetue-yiaco-xa-ni=goan(i).tetue-yiaco-raa,ei ei ei,
服を脱いだのだ。服を脱いで、この、この、
xoldon-do-a-ninee-xe-ni.xoldon-do-yinee-rii-nitee tei
側の所に置いた。側に置くと、ほうれあの
eiteiburrisolia-la-nibi-i,xekeciir,xai-jiaji,
あのハバロフスクの上流にある、ホクチールの(2)
xoNko-jiaji-a-ni,olgoman'ukpuele-xe-ni=goan(i).tei=tenii
崖の所から、大蛇がまっすぐに飛びかかって来たのだ。そいつは
noam-ba-nixamaar,koyol(-ni)moktoram ene-i-ji-e-ni,
彼を襲って、舟のマストが重さでポキリと折れるほどに、
n'ukpuele-xe-ni=goan(i).[i]cadobi-i-du-e-n(i)=teniieidu
飛びかかり、からみついて来たのだ。そこでその時に、そこに
bi-cinsure-wejapa-raa,suree-jicapci-xa-ni=goan(i).
あったをつかんで、 斧でぶった切ったのだ。
[nu wse],olgomibui-kin,tui ta-raatawaNkixoton-ci
さあ、 やった、大蛇は死んだ、それからそこから町へ
ene-xe~n,xoton-ciene-reeteidolbo-ni=a
向かった、町へ向かって行ってからその晩に
tolkici-xa-ni=goan(i),teixotom-baeleeisi-i-do-yi,[a]
夢を見たのだ、 その町にもうすぐ着とうという時に、
teisikse-niaoNga-idolbo-niaoNga-i-do-yi
その夕方は一泊したのだが、夜に泊まった時に、
tolkici-xa-n(i)=tanii,xai-wa,"geeelee,siibuembie
夢を見たのだ、(夢の中で大蛇語る)「さあもう終わりだ、おまえは我々に
xete-xen,siimiiasi-yi-yawaa-xa-si bi-ci-n(i)boNgo-do.
勝った、おまえは私の妻を殺したのだよ、最初に。
mii=teniisimbi,ici-agele-m(i)tu~l tulxas(a)si-m(i)
私はおまえを出会うのを求めていっつもいつも迫いかけて
pulsi-xem-bi.tul tulxasasi-xam(-bi).esi=tenii,ei
歩き回っていたのだ。 いつもいつもつけ狙っていた。今、この
xekeciir-du,xai-do-a-nixai-rii-do-yi,jolo-m(a)
ホクチールで、初めて襲ったのは、今まではおまえが鉄の(3)
tetue-ku-si=e,murci-xem-bi=e, un-dii-ni=go(ani), [i,]"abaa.
服を着ていた、 と思っていたのだが、 」 と言うのだ、 「( それは幻で) ない、
cawa=taniiabaaxai-mi,n'ukpuele-m(i)=tenii,
そいつは本当はない、 と気づいて、まっすぐ跳びかかって行ったのだが、
xamari-xam-bi=a,"un-dii,xoldon-dola-situu-rii-du-y(i-w)e
一瞬遅れた、」と言う「おまえの側に私が落ちた時に、
koyoldaacam(-ba)isi-ocia-si,[i]xai,moktoram
マストの根元におまえはやって来るや、バラバラに
ene-i-du-e-ni,siisure-wejapa-raacapsi-xa-si,eesii,
なるように、おまえは斧をつかんで切った、 ああ、 おまえは
siibumbiexete-xen," un-dii,"eweNkitaosisaman
おまえは我々に勝った、」と言う、 「これからシャーマンとなる
osi-i osini,bumbieyaai-xaari,"un-dii-n(i)=goan(i).medur
ならば、我々を祈祷するがよい、」と言うのだ。一組のペアの
olgoma-Ngo-ya"=mda.[nu,]tui ta-raa=taniitei,
大蛇を守り神として、 だ、 」(と言う。) さあ、それから彼が
sagdaNgo-ocia-ni,sagdaNgo-raa,bur-bucie-n(i)=tenii,
老いると、老いてから、 死ぬと、
xumu-gu-e-n(i)xumu-Ngu-wenaiaNgo-ocia-ni,xumu-Ngu-we(-ni)
埋めることになる、 埋める所を人が作ると、埋める所を
naixulu-ucie-nixule-reexumu-ucie-ni,xulu-ucie-n(i)
人が掘ると、掘ってから埋めると、埋めたらば、
cado=taniixai-rii-n(i)=go(ani),xai,ui=deeene-m(i)
そこで、 どうなったのか、誰も(そこへ)行くことが
mute-esibi-ci=e,"un-dii.olgoma,jueolgomacado,
できなくなったのだ、という。大蛇が、ニ匹の大蛇がそこに、
[i,]ambaan,pure(en) ambaa-ni.teixai-do,etu-uri-ci,
そして、トラ、トラがいる。それがそこに、見張りをしている、
ui=deeene-esi.[a]xai,asi-n(i)=taniiene-re,
誰も行けない。しかし妻だけは行く、
un-dii-n(i)=goan(i),"miiene-gu-i=e,"ene-uu-su=mxaNgisi."
というのだ、(妻は言う)「私が通ります、行きなさい、 あっちへ。 」
too~ goro-ci ene-reecadobi-iasi-n(i)xai,tei
するとずうっと遠くへ行ってそこにいる、妻はその
eji-ci-yisoNgo-ixai-riita-raatad(o)sia-ori-waneeku-ree
夫の所へ行って泣いたり何したりしてからそこに食べ物を置いて
naNgala-go-raaeu-gu-i,naon-ci[opjat']etu-uricawa,
残していって里へ下りる。 彼ら(大蛇とトラ)は再び見張る、墓を、
tui bi-ci=eun-dii-ni.geeele-ni.
そのようであったという。さあ終わり。

(1) 現在中国領の黒龍江省の松花江の中流にある。 「依蘭」の町がこれに当たる。ちなみにilaanはナーナイ諮で三であるから、「三姓」 はこれを意訳したものであろう。位置はハルピンよりずっと下流、佳木斯(ジャムス)のやや上流である。

(2) ハバロフスクからウスリー河に向けてちょっと上流に行った所にある丘。現在はロシア語でхехцерと呼ばれている。

(3) トラのくれたボタンがそのような幻影を生み出して大蛇に見せていたのだという。語り手による情報。