風間伸次郎(採録・訳注).1995.『ナーナイの民話と伝説』(ツングース言語文化論集5、小樽商科大学言語センター)より.

5(2) ӱм ǯобо-й мапа-ǯӥ, байа мапа-ǯӥ балдӥ-ха (1)

一人の 働き者の じいさんと、金持ちの じいさんとが 暮らしていた

Суник(1968 pp.75-6)より原文再録、風間訳


наахаǯӥдатӥ...ӱмǯобо-ймапа-ǯӥ,байамапа-ǯӥ
ナーハジラッテー、一人の働き者のじいさんと、金持ちのじいさんとが
балдӥ-ха.ǯобо-ймапа=дамама-ӈгӱ-ǯӥǯуэњи,байа
暮らしていた。働き者のじいさんも自分のばあさんと二人で、金持ちの
мапа=дамама-ӈгӱ-ǯӥǯуэ њи.энисиӈги-й-н(и)ǯобо-й
じいさんも自分のばあさんと二人。とても貧しいのだ、 働き者の
мапа,ǯэб-ди=дэбака-асӥ.ӱмǯее-н,тӥбайа,
じいさんは、食べる物も得られない。その隣の仲間、その金持ちは、
хай-ва=дахумнаанваа-рӥ,сӱгдата-ва=даваа-рӥ,
何をも全て彼は捕る、魚をも捕る、
нэпултэ-вэ=дэваа-рӥ.байантӥ.тӥ-лаирэмэ-ӈдэ-си-й
毛皮獣をも捕る。金持ちである、そのように。そこに物乞いに行く、
паал-дӱ-н(ӥ).та-пӥмапа=гдалӥвэн-ди-н(и),
時々(働き者は)。そうすると(ある時)働き者のじいさんは言う、
турсэ-вэсее-р(ӱ),мама-ӈгӱ-тӥ.тӥмама-ӈгӱ-нӥ=гдалвэн-ди-ни,
「イクラを噛みこなせ、」と自分のばあさんへ。そのばあさんは言う、
хай-ǯӱ-й,хай-ǯӱ-йсее-вӱ?"сее-р(ӱ),сее-р(ӱ),хэмэ=дэ.
「何のために、何のために噛むべきなの?」「噛め、噛め、黙ってだ、
буубулбу-вэсиǯэмсу-ми?"мама-ӈгӱ-ӈ=гдалтурсэ-вэтӥ
わしら死ぬべきじゃないだろ、飢えて。」ばあさんはイクラをそうして
сее-рӥ-нӥ,тӥсее-рӥ,тессее-ха-нӥ.тарамапатӥ
噛む、そうして噛む、たっぷりと噛んだ。それからじいさんはこう
вэн-ди-н(и),"бууадӱл=дааана,хай=даана.эстуэ
言う、「わしらは網もなく、何もない。今や冬で
хай-ва=даǯэб-дибака-васӥ."тӥ тарамама-ӈгӱ-ǯӥǯуэњи
何も食べ物は見つからない。」それからばあさんと二人で
вайсӥэв-хэ-ни.таравайсӥэврэ-рэ,сиим-бэ
岸辺へ下りた。それから岸辺へ下りてから、氷の穴を
дуучи-хэ-ни.даахаǯӥлатӥ...тӥтарамама-ӈгӱ-ӈ=гдал
うがった。ダーハジラッテーそうそれからばあさんが
тӥтурсэ-вэсее-хам-ба-нӥэси=гдэлтӥй,"куӈду,
そうイクラを噛んだのをこのように、「チョウザメよ、
куучи-ӈдэ-ǯу,аǯӥ,алавӱ-ӈда-ǯӱ,"вэн-чи-ни.та-мӥӱм
吸いに来い、ダウリチョウザメよ、キスしに来い、」と言った。そして一匹の
аǯӥди-ди,ӱмкуӈдуди-ди.мама-ӈгӱ-ӈ=гдалкӱах кӱах
ダウリチョウザメが来る、一匹のチョウザメが来る。ばあさんはポカポカ
паатӥчӱ-мӥ,тӥваа-ха-нӥ.тесваа-ха-нӥ.уй немо,уй
叩いて、そうして捕った。たっぷり捕った。マスも、
куӈду,уй кор,хай-ва=дахум.тараатӱчӥ-ǯӥ
チョウザメも、カワカマスも、何をも全て。それからそりで
тоогбӱ-ха-нӥ.тоогбӱ-ха.тӥбайамапасаа-расӥ.тара
運び上げた。運び上げた。あの金持ちのじいさんは知らない。それから
ǯобо-ймапагучиǯоомбӱ-ха-нӥ.ǯобо-ймапагучи
働き者のじいさんは再び思いついた。働き者のじいさんは再び
ӈэнэ-хэ.эсхонта-й-нӥмапа?ӈэнэ-рэ,эси=гдэл
でかけた。今度はどうする、じいさんは。行って、
горо-тӥӈэнэ-хэ-ни.тӥпуликтэ-ми,навкта-вабака-ха.
遠くへまで行った。そうして歩き回って、防寒用敷き草を見つけた。
хасӱм-бабака-ха-нӥ?сӥмата,хай-лабака-й-ла=ка.
どのくらい見つけた。雪が、いっぱいある所で。
койокто-ком-батавчӥ-ха-нӥсӥматаойокӥ-нӥ.ойотоло
ノイバラの実を集めた、雪の上に。上の方に
би-й-н(и)=гуни.тараэси=гдэлсӥматаойоло-нӥгодом
あるのだ。それから雪の上に長々と
акпан-чӥ-нӥ,навкта-ӈгӱ-чӱ,уњу-чу...тӥкойоктом-ба=гдал
横になった、敷き草を持って、鍋を持って。そうしてノイバラの実を
аӈма-тӥ,ӥсал-тӥ,вакса-тӥ,сеен-тӥчӱпалгӥда-хан.тара
口へ、目へ、鼻へ、耳へいっぱいに刺した。それから
тӥби-й-ду-ниэлэсиӈгу-м(и)нӱндӥсӥ-й-дӱ-нӥӱмтӱкса-ка
そうしている時に、もう凍って凍えようという時、一匹のウサギが
ди-чи-ни.тӥтӱксади-дэрэ,вэн-ди-ни,"аӱдамсее,
やって来た。そのウサギは来て、言う。「野の者たちよ、
бавлӱс,дуэнтэмсиээ,бавлӱс!"тӥта-й-дӱ-нӥӱмсӱлӥ
バウルス、森の者たちよ、バウルス。」そうする時に一匹のキツネが
ди-чи.та-м(ӥ)=дӥсӱлӥвэн-ди-ни,"анайӥ,сиӈгун-чи-н(и),
来た。 そうしてキツネは言う、「あらら、凍えたか、
вэ-ми,гучинавкта-ӈгу-чу,гуǯэлээймапа,ǯобо-й
と言っても、なお敷き草を持っている、かわいそうにこのじいさん、働き者の
мапа.хай-м(ӥ)бу-чинэй?койокто-ком-баǯэ-м(и)=дибу-чин,
じいさん。どうして死んだのか、これは。ノイバラの実を食べて死んだ、
би-лэ,эй?та-м(ӥ)=дӥтӥхэрси-хэ-ни,"аӱдамсее,бавлӱс,
そうらしい、これは。そうしてこう呼んだ、「野の者たちよ、バウルス、
дуэнтэмсиээ,бавлӱс!"та-мӥгучитестоксаэгди
森の者たちよ、バウルス。」そうしてさらにぎっしりウサギがたくさん
ди-чин,сӱлӥэгдиди-чин,уй сээпэ,уй хӱлӱ,уй
来た、キツネがたくさん来た、クロテンも、リスも、
вакӱлӥди-чи-тиэси=гдэл.тара=гдалтӥмапа-ватӥ
イタチが来た、今や。それからそのじいさんをそうして
ӥрчӱ-марӥӥра-ǯӱ-ха-тӥǯӱк-тӥ-нӥ,бэгди-ки-ни,хай-ки-н(и)=да
引きずって運んだ、彼の家へ、彼の足に、他の体のどの部分にも
хумиктэмэн-дэрэгэрэсӱлӥ,вакӱлӥ,уй хай=да
全て噛みついてたくさんのキツネ、イタチ、誰もが
хумтӥолбӱ-мар=дӥ,сӥлаӥсӱ-хахагдӱн-тӥ-н(ӥ).тӥ
そうして持って来たが、やっとこさ着いた、彼の家へ。そうして
токса-салӥ,тӥсээпэ-сэли,хӱлӱ-салӥчӱпалии-хэ-ти
ウサギたち、そうしてクロテンたち、リスたちが全部入った、
ǯӱк-тӥ-тӥ.тараатӥмама-ӈгӱ-ӈ(ӥ)=гдала,"эǯэнэ,эǯи
家へ。 それからそうしてばあさんは「ちょっと待て、決して
њээ-ǯу-ксу.гуǯэлэ,минмапа-ӈгӱ-ва-ӥхорӱ-м(ӥ),
出るな。いとおしいねえ、私のおじいさんを救って、
ӥра-ǯӱ-ха-сӱ."чоӈко-ӥ,паава-ӥ,уй хоол-чӱ-йчӱпал
運んで来てくれたなんて。天窓を、窓を、逃げる(所を)全て
сии-чу-хэ-ни,хай=дањээ-рэс(и)-ǯи-ни."гэ,элэ,ход(а)-хам-бӥ,"
閉じた、何も外へ出ないように。「さあ、もう終わったわよ、」
вэн-ди-ду-н(и),мапа-ӈгӱ-н(ӥ)соӈсоптээ-ǯу-ми,эси=гдэл
と言う時に、じいさんはガバッと起き上がり、
тӥсӱл(ӥ)-сал-ба,тӥхай-сал-бачӱпалпаатӥ-чӱ-мӥ
そのキツネたちを、そのそれらたちを全部叩いて
ваа-кта-ха-нӥ,хагдӱндоокӥ-нӥхай-лаӈэни-лэ=кэ?чӱпал
殺しまくった、家の中をどこへ行けるだろうか?全部
ваа-ха-нӥэси=гдэл.таратӥмапа=гдалэситесбайа
殺した、今。それからそのじいさんは今やすごく金持ちに
о-чӥ-нӥ.тактӱ-дӱтессӱгдата-ӈгӱ-нӥ,тӥсӥӈакта-ӈгӱ-нӥ=да
なった。倉にいっぱいに魚、あの毛皮も
чӱпалпукчи-хэ-ни,чӱпалмалхӱлуӈлокочӥ-ха-нӥ.та-пее
全部なめした。全部たくさんずらりと吊るした。そうすると
тӥбайамапаǯееӥињэктэ-миии-хэ-ни.ирэмэ-ӈдэ-м(и)=дэ
あの金持ちのじいさんが隣人を笑って訪問して入って来た。物乞いしにも
ирэмэ-ӈдэ-э-м(и)о-чӥ,пэскэ-м(и)ичэ-ӈдэ-хэн.анайӥ,тӥ
物乞いしにも来なくなった、不思議に思って見に来た。あらら、その
мапа-ӈгӱ-ӥтесбайан-чӥ,сӥӈакта-ӈгӱ-нӥтесэгди,тес
じいさんはすごく金持ちになっていた、毛皮もすごく多い、たっぷり
локо-хо,сӱгдата-ӈгӱ-н(ӥ)=датесэгди."хм,хон тӥ
吊るしてあった、魚もすごく多い。「フーム、どのように
та-мӥбаа-ха-с(ӥ)=ка,"вэн-ди-ни.ǯобо-йњии
して得たのか、」と言う。働き者の人は
сумэчи-(э)си-ӈ(и)=гуни,чӱпалчӱпалалдачӥ-ха-нӥ,"бии=кээ
隠さないのだ、全部全部教えた、「わしは
тӥта-хам-бӥ,"вэн-ди-н(и)."улэсимама-ӈгӱ-ӥэв-хэ,
このようにした、」と言う。「まずばあさんを岸に行かせ
мама-ӈгӱ-ǯӥǯуэ њисӱгдата-ватӥваа-ха,турсэ-кээм-бэ
ばあさんと二人で魚をこうして捕った、イクラを
сее-ра.тарамэнэ=гдэлпурэм-бэ-н(и)ӈэнэ-рэ,мэнэбу-чи
噛んで。それから自分で森を行って、自ら死んだ
њииосӥ-ра,тӥсӱл(ӥ)-сал-ба,тӥхай-сал-бамэпи
人になりすましてこのキツネたちを、この獣たちをして自分を
ӥра-ǯӱ-ван-чӥ-ӥ.""бии=дэтӥайа,"вэн-ди-н(и)тӥбайа.
運ばせた。」「私もそうすればよい、」と言う、その金持ちは。
"гэ,тӥта-в(ӱ),"вэн-ди-ни,ǯобо-ймапатӥ
「さあ、そうすべし、」と言う、働き者のじいさんはそう
алавсӥ-ха-нӥ.таратӥбайамапамээн-тиӈэну-ми,
教えた。それからその金持ちのじいさんは自分の所へ行って、
эси=гдэлмээнмама-ӈгӱ-ӥтурсэ-вэсее-ва-мӥǯоомбӱ-ха-нӥ.
自分のばあさんにイクラを噛ませることを思い出した。
тӥмапа=гдалӥмама-ӈгӱ-ӥээву-хэсиин-ти,тӥ=мачӥла=да.
そのじいさんはばあさんを岸へ行かせた、氷の穴へ、そのとおりにやった。
куӈду,куучи-ӈдэ-ǯу,аǯӥ,алавӱ-ӈда-ǯӱ!таратӥ
「チョウザメよ、吸いに来い、ダウリチョウザメよ、キスしに来い、」それから
аǯӥ-салтоо-рӥ,тӥмапа,хай,баа-вӱ-ӈгӱ-ǯӥ
チョウザメが上って来ると、そのじいさんは、得るべきもので
габала-й-ӈ(ӥ)=гӱнӥ,буњурусу-ми,тӥмама-ӈгӱ-ӥхаӱнчакпаатӥла-ра,
欲に目がくらんだのだ、あわててそのばあさんを気絶するほど叩いた、
ход-ха-нӥ,аǯӥм-ба=да,хай-ва=даэӈдэваа-ра.
終わった(死んだ)、チョウザメも、何も捕れなかった。

(1) 表記に関する注記。まず原著では次に来る母音によって前よりのもと後ろで調音されるк及びхを書き分けているが本書ではその区別をしなかった。動詞の語尾の融合についてはこれを分析した。すなわち原著のǯобӥрは、ǯобо-йё、тӥはта-ӥのようなにした。母音の脱落を表記しなかったと思われるものについては( )を用いてこれを補った。すなわちは、ход-хам-бӥはход(a)-хам-бӥ、сӱл-сал-баはсӱл(ӥ)-сал-ба、вэн-ди-нはвэн-ди-н(и)などとした。形態素、付属語等への分析については、ナーナイ後のテキストと同様の方針で行った。