終了したプロジェクト

◆ AA研共同利用・共同研究課題、AA研共同研究プロジェクト

「「シングル」と家族 ―縁(えにし)の人類学的研究」
(2010~2012年度、研究代表者:椎野若菜)
本研究は「シングル」とされる人間の存在とその生き方について,それと相反し強化しあうかのような存在である,当該社会における家族親族,またくわえて個々人に少なからず影響を及ぼす国家の存在との関係性を念頭に,縁(えにし)という言葉を手がかりに社会-文化人類学(以下,人類学と記す)の立場から追究するものである。
現代社会における個人の生き方は多様化してきている。出稼ぎ,単身赴任,留学,宗教的理由,また被災,少子高齢化といった要因で頻繁に人は移動し分散し,こうした社会的環境の変化によってライフスタイルや人と人との関係性も大きく変化している。いったん崩壊したかにみえた近代家族だが,それをモデルにした擬似的な「家族的」なものを求め,近年,人々がつながりだしている事象がみられる。以上のような現代の事象をもとに,本研究はアジア・アフリカを中心に家族,社会の実態と,それらによって創出されたとも考えられる「シングル」の生きる戦術を明らかにする。さらにこうした作業により,固定されがちなシングルに対する現代的な社会理念,シングルの存在の対として位置づけられがちな理想像として生産される家族(像)について,人類学の立場から検討する。

「社会開発分野におけるフィールドワークの技術的融合を目指して」
(2010~2012年度、研究代表者:増田研(長崎大学))
本研究課題は,文化人類学に隣接した今日的な実践的分野である社会開発における研究活動に必要とされるフィールドワークの技術的融合を目的とする。具体的には,(1)参与観察とインタビュー調査を中心とする文化人類学の方法論を,広い意味での社会調査のなかに適切に位置づける,(2)疫学・統計といった数量的調査および空間情報システム(GIS)によるアウトカムを,質的調査の成果と組み合わせる方法を模索する,(3)アジア・アフリカにおける人口静態・動態調査(Demographic Surveillance System)のアウトカムに対しての検討を適して技術的融合の可能性を探るおよび(4)これらの技術を参加型開発の実践に応用する手法を見いだす,以上の4点を活動内容とする。社会開発分野においては人類学と同様に「フィールドワーク」を必要とするはいえ,Rapid Ethnographic Method (Rapid Appraisal)のような,時間をかけずに手っ取り早く誠査を済ませる方法論が提唱されている。しかし我々は,このような「目的に向かつて単線的に進む調査手法」からそぎ落とされてしまう「ノイズ」にも注目し,従来型の地域の文脈に根ざした人類学的な手法,「問題をめぐって発見をあぶり出していく螺旋的思考運動」を,多様な分野における調査・分析方法と具体的データを事例に吟味し議論しつつ,新たなフィールドワークの方法論へと結びつけたいと考えている。こうした取り組みは,人類学における開発の分野だけでなく,国際保健分野などにおいて,いわゆる質的調査への需要が高まっているなかで,大きな意義を持つであろう。

「東・東南アジアにおける地域間越境移住の人類学 ―結婚(離婚)移住ネットワークにみる文化・エスニシティとアイデンティティー」
(2010~2012年度、研究代表者:石井香世子(東洋英和女学院大学))
本共同研究課題では,東・東南アジア各地(日本・中国・韓国・香港・台湾・フィリピン・ベトナム・タイ・マレーシア・インドネシア)をフィールドとする内外の研究者を集め,東・東南アジア地域に近年発達しつつある,越境結婚/離婚移住ネットワークの多方向性・重層性・環流性について分析する。これまで人類学の分野では,東・東南アジア地域を対象とした移動研究・越境移動研究が数多く蓄積されてきた。しかし一方で,今日の越境移動の重要な一角を占める結婚移住に焦点を当て,移動ネットワークやメカニズム,越境移動に伴う諸現象を分析した研究は未だ少ない。ましてや,国際離婚にともなう離婚移住に着目した研究は皆無に近い。本研究ではこれらの越境移動事例に焦点を当てて研究することで,人類学の移動・移民研究分野において新たな知見を発見することが期待される。

「人類社会の進化史的基盤研究(2)--制度--」
(2009〜2011年度、研究代表者:河合香吏)
人類は生物分類学的には霊長目に属し、進化史的にはごく最近(約600~700万年前)までチンパンジーやピグミーチンパンジー(ボノボ)といった大型類人猿とともに進化の過程を歩んできた。人類の社会性(sociality)の基盤はこれらヒト以外の霊長類との連続性と非連続性を検討することによってこそ、より深く明解な人類学的理解が可能となろう。このプロジェクトは、長期的プロジェクトの第1弾として2005~2008年度におこなわれた「人類社会の進化史的基盤研究(1)」におけるテーマ「集団」に続く第2弾として「制度」をとりあげるものである。ここでは、「制度は言語のうえに成立する」という一般に当然と思われている命題にたいして、音声言語をもたないヒト以外の霊長類に「社会」を認め、社会構造論や家族起原論などを展開してきた霊長類学の知見や理論によってこれを相対化する。そのいっぽうで、当該社会の成員の行為・行動のなかに制度の前駆的なありようをみとめ、言語を前提としない制度の可能性とその進化史的基盤を追究する。

「インドネシア在地文書研究プロジェクト」
(2009~2011年度、研究代表者:宮崎恒二)
本プロジェクトは,これまで日本でまったく用いられてこなかったインドネシア諸語による在地文書に焦点を当て,その全体像を把握とするとともに個々の写本ないし写本群のコーパスを構築し,それらを用いたインドネシア諸地域の歴史,文化,社会,言語の諸側面の解明を目指す。また,これらの在地固有言語による文書を資料として用い,かつその利用方法を確立することによって,植民地行政文書や口頭伝承に依拠した研究とは異なり,現地語による文字表象を通じた,新たな視点の開拓を目指す。さらに,個別文化の研究にとどまらず,広く文字文化一般,そして口承伝統と文字文化の関係についての考察も進める。三年間のプロジェクト期間を設け,第一段階として,インドネシア諸語による写本の全体像を解明すると共に,ジャワ語・ジャワ文字による写本を研究対象として取り上げる。

「アジア・アフリカ地域におけるグローバル化の多元性に関する人類学的研究」
(2008~2010年度、研究代表者:三尾裕子)
近年,ヒトやモノ,情報,そして文化の国境を越えた長距離の大規模な移動に関する関心が高まりつつある。こうしたトランスナショナルないしトランスローカルな移動や越境現象は,いわゆる「グローバル化」と名付けられ,これに関しては政治学・経済学などの社会科学における研究,あるいはメディアでの「グローバル化」をめぐっての関心や言説の興隆が指摘されている。
しかしながら,地域研究や人類学の対象とする主にアジアやアフリカなどの現場においては,いわゆる「グローバル化」がいかなる形をとって進行しているのか,あるいは「グローバル化」と一括して語られることの多い現象の実際の多様で複雑な諸相はいかなるものであるのか,といった問題については,実証的ないし民族誌的な研究が必ずしも十分に行われてきたわけではない。また,従来の研究の多くは,「グローバル化」をめぐって欧米などを中心とし,そうした先進諸国のメトロポールと,いわゆる「第三世界」のあいだでの,ヒトやモノそして情報の移動を前提とするものが大半であった。いわば世界システム論が言う「中心/周辺」ないしは「南北問題」的な二項対立図式を前提として想定したものが主流であった。
この現状に鑑み,本プロジェクトでは,総論的,観念的に語られることの多かった「グローバル化」について,文化人類学者を中心に歴史学や地域研究の研究者も加えて,アジアとアフリカにおける「グローバル化」をめぐる多様で複雑な諸相について具体的,実証的に解明していくことを目指すものである。また,「グローバル化」を最近の特異な現象として捉えるのではなく,より長い歴史の中で相対化して捉えることも目指す。更に,同時にこの研究を通じて従来の地域概念の再検討へ寄与することも目的とする。

◆ 科学研究費補助金研究課題

基盤研究(C)一般「スールー海域世界を中心とする特殊海産物の移動と越境に関する歴史人類学的研究」(2008-2012年度、研究代表者:床呂郁哉)

若手研究(B)「東アフリカにおけるセクシュアリティの変化と「シングル」の生活戦略の可能性」(2008-2011年度、研究代表者:椎野若菜)

平成22年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)学術図書『「華人性」の民族誌』(課題番号:225113、津田浩司)

基盤研究(C)一般「東アフリカ牧畜民における集団間の友好と敵対のバランスシート:諸集団共存の重層性」(2008〜2010年度、研究代表者:河合香吏)
 本研究は東アフリカ牧畜民の集団間関係、集団形成の論理、集団の境界維持のメカニズムを、個人間関係というミクロなレヴェルから検討することを目的とする。研究対象として、長期的調査をおこなってきたウガンダのドドスと、これに隣接する民族集団であるケニアのトゥルカナに焦点をあてる。ドドスとトゥルカナの間には、家畜の略奪(レイディング)という敵対的な相互行為が頻発する一方で、家畜の贈与や交換などの友好的な相互行為がふつうにみられる。さらに、水場や放牧地といった牧畜という生業に不可欠な資源の利用、アクセスに関して両集団間にしばしば親和的許容の態度が現れる。こうした敵対と友好の二相を行き来する集団間関係の重層性を解明する。

基盤研究(B)一般「クメール、チャム碑文資料に基づくシヴァ教の研究」(2007~2010年度、研究代表者:高島淳)

若手研究(B)「中東諸国におけるパレスチナ難民の帰化に関する研究」(2008-2010年度、研究代表者:錦田愛子)
 ヨルダン、レバノン、クウェートに在住のパレスチナ人が直面する、国籍や市民権の獲得(帰化)をめぐる法的・制度的問題と、社会的実態について調査を行なう。